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東京地方裁判所八王子支部 平成2年(モ)2226号 判決

債権者

中山善博

債権者

辻田慎一

右両名訴訟代理人弁護士

西畠正

小島啓達

秀嶋ゆかり

債務者

株式会社ケミカルプリント

右代表者代表取締役

瀬戸洋

右訴訟代理人弁護士

高井伸夫

山崎隆

内田哲也

高下謹壱

主文

一  右当事者間の当庁平成二年(ヨ)第三四号地位保全等仮処分申請事件について、同裁判所が平成二年一一月二七日にした仮処分決定を取り消す。

二  債権者らの仮処分申請をいずれも却下する。

三  訴訟費用は債権者らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立て

一  債権者ら

1  債権者らの債務者に対する当庁平成二年(ヨ)第三四号地位保全等仮処分申請事件について同裁判所が平成二年一一月二七日になした仮処分決定を認可する。

2  債務者の本件異議申立てを棄却する。

3  訴訟費用は債務者の負担とする。

二  債務者

主文同旨

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  債務者は、金属のエッチング加工(金属を薬品で溶かして腐食させること)を主な業とする株式会社である。

2  債権者中山善博(以下「中山」という。)は昭和五五年一二月、同辻田慎一(以下「辻田」という。)は同五八年一月、債務者会社に入社し、同中山は同五六年秋頃主任になった。債権者ら(以下債権者両名を「債権者ら」という。)は、平成元年七月一〇日から、インターフェイスクミ作業といわれる作業の一工程(以下「本件作業」という。)に従事していた。なお、債権者らは昭和六二年一〇月頃、債権者ら二名を組合員として三多摩合同労働組合ケミカルプリント分会(以下「組合」という。)を結成した。

3  債務者は、債権者中山に対し平成元年一一月六日付けで、同辻田に対し同七日付けで、それぞれ懲戒解雇する旨の通知をした(以下「本件懲戒解雇」という。)。

4  債権者らは、平成二年一月二六日当庁に対し、地位保全等の仮処分を申請し(平成二年(ヨ)第三四号地位保全等仮処分申請事件)、平成二年一一月二七日、以下の仮処分決定を得た(以下「本件仮処分」という。)。

(一) 債権者らが、債務者に対し、それぞれ雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

(二) 債務者は、債権者中山に対し金四一万二八一八円及び平成二年一月二一日から本案判決確定に至るまで毎月二五日限り金二〇万四二〇六円を、債権者辻田に対し金三二万九七六九円及び平成二年一月二一日から本案判決確定に至るまで毎月二五日限り金一六万三二二三円を、それぞれ仮に支払え。

二  申請の理由

1  本件懲戒解雇は、次のとおり無効である。

(一) 債権者らには、次のとおり、懲戒解雇事由がない。

(1)イ 債権者らは、債務者から、標準作業量を具体的に示して本件作業を命じられたことは、今回の解雇通知を受けるまで一度もなかった。そもそも債務者のいう標準作業量には何ら客観的・合理的根拠がなく、債権者らを懲戒解雇するため作出したものである。

債権者らは、誠実に本件作業を行っていた。債務者から指示された納期に遅れたことはあるが、これは、債務者が、債権者らが正当に行ったストライキや出勤停止処分による作業の遅れ及び前の分の作業の遅れを考慮せずに納期を定めたからであり、債権者らの怠業の結果ではない。

ロ タイラップ締めつけ不良として返品された商品は、債権者らの本件作業によるものではない。

右不良品が債権者らの本件作業によるものだとしても、作業に使用する工具の欠陥によること、完成品の最終的なチェックは小宮山が行うことになっていたことを考慮すると、不良品の発生を債権者らの責任に帰することはできない。さらに、債権者らは、返品された製品を直ちに修正して再納入したので、何ら債務者の信用を損なったことはない。

また、他の不良品については、債務者の信用を傷つける程の数でも程度でもない。

(2) したがって、債権者らについて、就業規則五二条五号該当の懲戒事由は存在しない。

(二) また、債権者らに対するこれまでの懲戒処分は、いずれも不当なものであり、就業規則第五二条一〇号に該当する事由はない。

(三) 本件懲戒解雇は、債権者らの組合活動を嫌悪する債務者が一連の不当労働行為の一環として、債権者らを債務者会社から排除しようとしてなされたものであるから無効である。

(四) 本件懲戒解雇は、もっぱら組合潰しのために、余りに軽微な債権者らの行為を対象として行われたもので、解雇権の濫用として無効である。

2  したがって、債権者らは債務者に対し、雇用契約上の権利を有するから、生活上の支障と回復しがたい損害を避けるため、仮の地位の定めと賃金の仮払いを求める。

三  申請の理由に対する答弁

本件懲戒解雇事由は、次のとおりである。

1(一)  債務者は、債権者らに対し、本件作業について一時間当たり二五本ないし三〇本(右数量を、以下「標準作業量」という。)をこなすように口頭で度々指導し、三度警告書も出した。ところが、債権者らは、その半分程度しか達成しなかった。

(二)  債権者らは、本件作業を通じて多くの不良品を発生させ、債務者が何度も不良品を発生させないよう注意しても改まらなかった。特に、発注者から、タイラップの締めつけ不良といわれる不良箇所のため、二回にわたり、合計一九九〇本分の返品を受けた。

(三)  債権者らは、債務者取締役営業部長の小宮山憲(以下「小宮山」という。)が、前記(1)、(2)の点について注意をした際、反抗的な態度を取った。

(四)  以上の債権者らの行動は、職務懈怠であり、就業規則五二条五号「職務上の指令に従わず会社内の秩序を乱し又は乱そうとしたとき」に該当する。

2  また、債権者中山は、平成元年一月二五日作業日報不提出を理由に譴責処分を、同年二月二五日小宮山に対する暴行を理由に減給処分を、同年三月一五日業務妨害行為を理由に降職処分を、同年七月一九日労務担当者に対する暴行を理由に出勤停止処分を受けた。同辻田は、平成元年一月二五日及び同年二月二五日いずれも作業日報不提出を理由に譴責処分を、同年三月二二日業務妨害行為及びカメラ強奪行為を理由に出勤停止処分を受けた。このように債権者らは、再三再四懲戒処分を受けたにもかかわらず、反省することなく、前記の非違行為に及んだもので、就業規則五二条一〇号「数回懲戒処分を受けたにもかかわらず改悔の見込みがないとき」に該当する。

3  債務者は、債権者らの右各懲戒行為の程度を考慮し、債権者らを懲戒解雇した。

四  争点

本件懲戒解雇の懲戒解雇事由とされた事実の有無(争点一)、不当労働行為の有無(争点二)及び解雇権の濫用の有無(争点三)

第二争点に対する判断

一  争点一について

1  (証拠・人証略)、債権者ら各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 債権者らが本件作業を行うようになった経緯

債務者は、従来三鷹市内に本社及び三つの工場を持って操業していたが、昭和六二年四月頃、本社及び工場を青梅市へ移転することを計画した。従業員(役員、非常勤を含めて二〇数名)は、債権者らを含め三鷹市近辺に住んでいた者が多く、債権者らは右移転に反対し、同年一〇月頃、債権者ら二名を組合員として組合を結成した。

債務者は、同六三年三月末頃、工場を青梅に移転したが、債権者らの反対を考慮して、従来社長室に使用していたアパートの一室を三鷹作業所として残し、債権者ら二名だけを勤務させることにし、当初、三鷹作業所では、青梅の工場で製造した製品の修正と検査をさせた。しかし、自動車で往復三時間かけ、青梅から三鷹作業所に製品を運んで修正・検査し、更に青梅で梱包・出荷することは極めて効率が悪く、また、債権者らは同年四月から九月までの間に六三回ストライキを行い、しかもその多くが当日の朝通告されたため、債務者は作業の見通しが立たなかった。このため、修正・検査も青梅で処理しがちになり、債権者らは手待ち状態になることが多かった。

そこで、債務者は、特別な設備等が必要でなく三鷹作業所で行わせるのに適した仕事を捜すことにし、同六三年九月末頃、訴外株式会社光製作所(以下「光製作所」という。)から袋詰めにされた注射器を袋から出して分解し、仕分けする作業を受注した。債権者らは、しばらく右作業に従事していたが、平成元年三月三日、光製作所の社長を訪れ、作業ができる状態でない等と述べたことから、光製作所は、債務者に対し、債権者らの行動について報告した上、同六日発注を解除した。

債務者は、平成元年七月七日、右作業に代わる作業として、訴外有限会社永井製作所(以下「永井製作所」という。)から本件作業を受注した。

同年七月一〇日、小宮山は、三鷹作業所に材料及びその関連部品を搬入し、債権者らに本件作業を命じた。本件作業の責任者は高橋繁夫技術部長(以下「高橋」という。)だったが、高橋は青梅の工場に常駐している必要があったので、小宮山が三鷹作業所を度々訪れ、材料と完成品の運搬をした。

(二) 本件作業の内容

インターフェイスクミ作業とは、OA機器等の電気機器間を接続するコードであるインターフェイスを加工製作する作業をいう。永井製作所は、インターフェイスクミ作業の一部を元請けから受注しており、その更に一部である本件作業を、従来家庭の主婦等の内職に下請けさせていた。なお、永井製作所から債務者に支払われる報酬は、一本当たりの単価に仕上がった本数を乗じて計算されていた。

本件作業は、九本の細いコードの束であるキャプタイヤを加工する作業でありその手順は以下のとおりである。

(1) キャプタイヤの両端の紙を外し、色分けされた九本のコードを出す(紙は予め外して渡されることが多かった。)。

(2) タイラップ(合成樹脂でできた紐)をキャプタイヤの所定の位置二箇所に巻き付け、専用の工具で締めて固定する。右工具は、ダイアル操作により紐を締めつける強さを調整することができる。

(3) 九本のコードのうち、五本の右端を切る。

(4) 各コードの両端のビニール被膜を除去し、中のリード線を露出させる(この作業をストリップという。)。被膜を除去する寸法は、四本については一端が四ミリ、一端が二・五ミリ、四本は両端三ミリ、一本は両端六ミリと決められている。右作業にはストリッパーという専用の工具(目盛りを合わせた寸法で簡単に被膜を除去することができる工具)を用いる。

(5) コードのうち一本の両端に端子を差し込み、上から圧着機で押さえて留める。端子からは、リード線が〇・二ミリから一ミリ出るようにする。

(三) 本件作業の数量

(1) 債務者は、本件作業を受注する際の平成元年七月七日、永井作業(ママ)所から、永井作業所で本件作業を行った経験や従来内職に出してきた経験を踏まえると、作業を始めて一週間から一〇日経てば、少なくとも、一人一時間当たり二五本から三〇本は仕上がるようになるはずであると告げられた。また、永井作業所は、同年一〇月二三日にも、標準作業量は一時間三〇本前後、一日納品数は四〇〇本であることを文書にして債務者に交付した。ただし、個々の受注の際、永井製作所から個別的な納期を定められたことはない。

(2) 債務者は、債権者らに対し、別紙作業状況等表(以下「別表」という。)のとおり、同年七月一〇日から同年一〇月二八日までの間、材料を三鷹作業所に搬入する際、材料の分量と完了すべき納期を製造指図書という書面に記載して交付し、本件作業を指示した。債務者の指示する納期は、材料を引渡した時点の未処理分の本数、公休日等を考え合わせると、おおむね一人当たり一時間二五本前後の数量の割合で作業するような日数で指示されており(別表のとおり)、時に一日六〇〇本を超える割合による日数で指定されている時もある。

(3) 債権者らの本件作業の結果は、別表のとおりで、一人一時間当たりの作業量は同年八月から一〇月まで、おおむね一四本から一七本の間を推移しており、別表のとおり、債務者の要求する納期に仕上がることはほとんどなく、一日から一〇日遅れる状況が続いた。

(4) 小宮山と高橋は、本件作業期間中毎日のように債権者らに電話をかけ、作業の進行状況を確認し、作業能率を上げるよう指示した。特に、同年七月二〇日には債権者辻田に対し、一人一時間三五本が標準であると述べた。

また、小宮山は、毎日のように三鷹作業所を訪れ、出来上がった分だけでも受領するようにしていたが、その際、度々債権者らに対し、永井製作所から納品の督促を受けている旨を伝え、作業能率を上げるように注意した。さらに、高橋は、同年九月五日付け、同月二一日付け及び同年一〇月二四日付けで、「一日当たりの標準作業量に達しない怠業状態にある」旨の警告書を出した。

小宮山は、同年九月五日、三鷹作業所を訪れて右同日付けの警告書を交付したが、その際、債権者らは、「標準作業量」について一日何本なのかを明確に記載して欲しいと要求し、小宮山と債権者中山との間で口論になった。この中で、同中山は、仕事をちゃんとやっていないと言われたのに対して、「ちゃーんとやっているじゃない。でたらめ言うんじゃない。バカヤロー。」と言った。小宮山は、標準作業量とは、まじめに作業すれば当然できるはずの量であると言った上、口論の最後、「一日四〇〇本上げれば良いですよ。二人で、ね。」と述べた。

また、債権者辻田は、同年九月二一日付けか同年一〇月二四日付けの警告書を小宮山が渡そうとした際、標準作業量について明確にするように求め、中身の分からない警告書を受け取ることはできないとして、警告書の受領を拒絶した。

(5) 債権者らが前記のとおり、債務者の予定する納期を遅延した結果、受注した未処理のタイラップがたまり、債務者は永井製作所から度々納品の督促を受けた。ただし、永井製作所から、納品が遅滞することを理由として、受注をやめる旨の警告を受けたことはない。

債務者は、青梅の工場の工員に、本来の作業の合間に本件作業を行わせたことがあるが、ある工員に、同年九月一一日から一二日まで五〇本ずつ二五〇本、一三日二〇〇本(一部一四日に処理している。)を行わせたところ、徐々に作業能率が上がり、最後は七時間三五分の作業で二〇〇本を完成させることができた。

(四) 不良品の発生

(1) 小宮山は、債権者らに本件作業を命じる際の同年七月一〇日、実際に本件作業をやってみせ、また、作業手順書と図面を交付した。右には、タイラップが手で回らないように注意すること、ストリップの寸法に注意し時々測って確認すること、端子からリード線が〇・二から一ミリ出るようにすること等の注意事項が記載してあり、小宮山は、口頭でも、時々作業が終わった分から数本抜き取って確認するよう指示した。また、同月一三日、それまでに債権者らが作業した分に不良品があったので、小宮山が三鷹作業所を訪ねて、端子から出るリード線の長さの調整やストリップの寸法の誤差について、〇・五ミリ程度が許容範囲であること等、再度作業の上で注意すべき点について説明した。

(2) 債権者らの製品を永井製作所に納品する際、永井製作所により抜き取り検査が行われたが、別表のとおり、しばしば不良品が発見された。不良箇所は、被膜をストリップする寸法の長すぎや短すぎ(右寸法が正確でないと後にショート等の原因となる。)、ストリップを全くしていない、端子を付けていない、端子を付けるコードの間違い、端子から出るリード線の長すぎや短すぎである。永井製作所では不良品の割合が多い時には、納入された製品全部を発注先に返し、検査と修正をさせることにしていたが、これらの不良によって製品が債務者に返されたことはなかった。

小宮山と高橋は、電話や製造指図書で、また、小宮山が三鷹作業所を訪れる際、不良品を発生させないように指導した。また、高橋は、同年一〇月三日、不良品の発生について警告書を出した。

(3) 債務者は、永井製作所から、一〇月以降納品分の製品について、一〇月二〇日一一九〇本、同二四日八〇〇本(実数九八〇本)、いずれも不良を理由に返品を受けた。返品されたもののうち、少なくとも三分の二については、タイラップの締めつけがゆるすぎて、位置がずれてしまう状態だった。タイラップは、インターフェイスを作成するための後の工程において基準線となるものであり、工具の締めつけ具合に注意してタイラップを決められた位置に固定すべきことは、同年七月一〇日債権者らに交付した前記作業手順書に記載されている。

タイラップがゆるんでしまった原因は、債権者らが用いていた工具の不良によるもので、債務者は、債権者らに対して作業のやり直しを命じる際、新しい工具を渡した。債権者らは、同年一〇月二〇日から同二六日にかけて返品されたものの点検と手直し作業を行い、再び永井製作所に納めた。

(五) 解約

債務者は、同月末日ころ、債権者らの本件作業の状況に照らして、これ以上永井製作所からの受注を継続することは適当でないと判断し、同年一一月一日の受注を最後に、永井製作所に対し、本件作業の受注を辞退した。

同月六日、三鷹作業所が閉鎖され、債権者らに対し、本件懲戒解雇が通告された。三鷹作業所が閉鎖された時点で、未処理のタイラップが七〇〇本以上あり、債務者は、急に受注を止めたことにより永井製作所に迷惑をかけないよう、同年一二月の始めころまでは、青梅の工場において、本来の業務の合間に本件作業を行った。

(六) 債権者らに対する処分の概要

(1) 債務者は、平成元年一月二五日作業日報不提出を理由に債権者らを譴責処分にした。

(2) 債務者は、債権者中山に対し、同年二月二五日小宮山に対する暴行等を理由に減給処分にした。また、同辻田に対しても、同日作業日報を作成しなかったことを理由に譴責処分にした。

(3) 債務者は、債権者中山が同年三月三日光製作所を訪れた際の行動について、同一五日、主任職を免じる降職処分にした。

(4) 債務者は、同年三月二三日、カメラを奪った行為と(3)の行動の際債権者中山と共に光製作所を訪れたことと合わせて、同辻田を九日間の出勤停止処分にした。

(5) 債務者は、同年六月二八日の団体交渉の際、債権者中山が債務者の社員の前胸部を両手掌で強く押し、後方へ転倒させたとして、同年七月一九日、同中山を五日間の出勤停止処分にした。

(6) これらの処分のいずれについても、債権者らは処分が不当であるとして、始末書を提出しなかった。

以上の事実が認められる。

2  以上の事実をもとに、争点一について検討する。

(一)(1) まず、作業量の指示の有無についてであるが、前記1(三)に認定のとおり、小宮山は債権者辻田に対し、本件作業が開始した直後の同年七月二〇日に、一人一時間三五本が標準的な作業量であると告げたこと、ついで同年九月五日にも、小宮山は、同日付け警告書を債権者らに交付しに行った際、債権者らから具体的な数量を示すように要求されて、二人で一日四〇〇本仕上げればよいと述べたことが認められるところ、これに、前記認定の、債務者が実際にも、製造指図書において、未処理分を考慮すると、おおむね一日二人で四〇〇本前後(一人当たり一時間二五本前後)の作業量の割合で納期を定めていること、小宮山と高橋が、本件作業期間中のほぼ全期間を通じ、頻繁に作業能率を上げるよう指示していたこと等を考え合わせると、債務者は債権者らに対し、本作業期間中、作業量としては最小限一人につき一時間当たり二五本であることを指示していたと認めることができる。

なお、債権者らは、仮に、作業量の指示があったとしても、その作業量には何ら合理的な根拠がなく、債権者らを解雇するために作出されたにすぎない旨主張するが、前記認定のとおり、債務者が永井製作所から受注時、少なくとも一人当たり一時間に二五本から三〇本は仕上がると告げられ、その後もたびたび完成品の納入を督促されていたこと、青梅の工場の工員が、四日間本件作業を行ったところ、最終的に七時間三五分の作業で二〇〇本完成させたこと(一時間当たり約二七本)を斟酌すると、永井製作所からの個々の受注に個別的な納期は定められていなかったとしても、債務者の右作業量の指示は、合理的な必要に基づき、かつ十分実現可能な範囲の指示であったと認められるから、右主張は理由がない。

(2) ところが、右のとおり、債権者らは、本作業期間中、債務者から作業量の指示を受け、かつ、これに従って作業能率を上げるように重ねて指示、警告を受けていたにもかかわらず、前記1(三)(四)に認定のとおり、一人一時間あたり一七本の割合を越えて作業をしたことがなく、しかも、同年八月から本件作業終了時まで目立った向上がみられなかったばかりか、右指示・警告に対し反抗的態度を示したこと、さらに、本件作業開始直後から作業内容について十分説明を受け、その後も小宮山や高橋から何度も注意を受けていながら度々不良品を発生させ、最後にはタイラップ固定不良により大量の返品を受ける事態を招いたことが認められるところ、かかる債権者らの本件作業上の状況及び言動は、債務者の指示に反し、職務上の指示に従わない職務懈怠と言わざるをえない。

確かに、別表のとおりたびたびストライキや有給休暇、病気による欠勤、出勤停止処分があり、また、二人で一日六〇〇本を越える割合で納期が定められた場合もあることを考えると、納期の遅れはやむをえない場合もあり、また、本件作業の性質上、ある程度の不良品の発生は避けられないとも言えるが、そもそも債権者らの作業能率は、債務者が指示した最小限の作業量一人当たり一時間二五本に比しても、一時間で八本から一一本も少なく、また、不良品の発生のうち、タイラップの固定不良は、二〇〇〇本を越える製品のうち三分の二に及んでおり、工具の不備によるものとは言え、これについて全く気付かず作業を継続した債権者らの責任も大きいと言えるから、これらの点は右判断を左右しない。

そして、債権者らが、右のとおりの作業状況に終始した結果、前記認定のとおり、三鷹作業所には未処理のタイラップがたまって、永井製作所から度々督促を受け、また、小宮山と高橋は、頻繁に電話で督促したり、出来上がった分だけでも引き取るため、連日青梅の工場から三鷹作業所まで行かなくてはならない状態が続いていたのであるから永井製作所から直ちに発注を取り止める旨の警告を受けていなかったことを考慮しても、かかる債権者らの本件作業上の状況及び言動は、債務者に負担をかけ、三鷹作業所の生産性を阻害するものであり、債務者会社内の秩序を乱したと言うべきである。

(3) したがって、右の債権者らの本件作業上の状況及び言動は、就業規則五二条五号に該当するものと言うことができる。

(二) 次に前記1(六)に認定したとおり、債権者らは、過去にも作業日報の作成を拒絶したとして譴責処分を受け、また、光作業所を訪れた際の行動について債権者中山は降職処分に、同辻田は出勤停止処分に処せられ、他にも懲戒処分を受けている(右各懲戒処分の当否はともかく)ところ、さらに、債権者らは、前記のとおり、職務上の指令に従わなかったものであり、右は同条一〇号に該当すると認められる。

3  以上の次第で、債権者らには、懲戒事由があり、かつ、その懲戒行為の性質・程度即ち、懲戒事由が二つあること、懲戒行為の期間・回数、債権者らには反省・改善の態度が見られないこと、懲戒事由発生に至るまでの経緯などに鑑みると懲戒解雇事由たりうるものと言うことができる。

二  争点二及び三について

なるほど、債務者代表者瀬戸洋は、組合ないしその活動や組合員たる債権者らないしその活動を嫌悪していたと窺われる言動を示したことが認められるのであるが、前記認定した本件懲戒解雇に至った経緯及びその事由に照らすと、このこと故に本件懲戒解雇に至ったとは到底言えないし、他に本件懲戒解雇がことさら組合員たる債権者らの排除や組合潰しを目的としてなされるなど不当労働行為に基づくことを窺わせる事情も証拠もないから、債権者らの本件解雇が不当労働行為の一環としてなされたとの主張は理由がない。また、債権者らは、本件懲戒事由が軽微であるのに本件懲戒解雇に至ったのは解雇権の濫用であるかのように主張するが、右事由が軽微とは言えないことは先に説示したとおりであり、他に解雇権濫用に該当するような事情も証拠も認められないから、右主張も採用できない。

第三結語

以上によれば、被保全権利の存在につき疎明がないから、本件仮処分は、これを取り消し、債権者らの仮処分の申立ては却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 樋口直 裁判官 水谷美穂子 裁判官 岡部純子)

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